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〜医者はどこまで患者と向き合っているか?〜主治医はあなた【随時更新】

現代の医療のあり方に一石を投じ、これからの医療の可能性を模索する。
心身統合医療に力を注ぐ、医師・樋田和彦のメッセージ。

主治医はあなた

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人間まるごと。生命まるごと。
全人的・包括的な視点を持つのが
ホリスティック医学です。

■“人間まるごとの医学”

私が一生の職業として選んだ耳鼻咽喉科が極めて専門性の強い科目であったことが転機となり、やがて「生きものである人間は全体として生きているのであって部分だけが病むということは考え難い」と思うようになりました。病名にとらわれず、今、目の前にいる患者さんをしっかりと診る。その大切さに気づかされたとき、ホリスティック医学に縁が開かれました。

ホリスティック医学とは何か。一口で言えば「全人的、包括的」な医学です。人間を専門化・細分化的に診る医学・医療に対して、「人間を分けて診ることは生きた人間を診ることにはならない」という反省から発生した、“人間まるごとの医学”といってもいいかもしれません。

ホリスティック(holistic)とは、ギリシャ語の「holos」を語源としwhole(全体)、health(健康)、holy(神聖)、heal(癒す)、4つの言葉の造成語であり、これら全ての意味も兼ね備えています。

■アメリカ医学生の草の根運動から始まったホリスティック医学

そもそもホリスティック医学とは1970年代アメリカの医学生による草の根運動から始まりました。「ホリスティック・ヘルス・ムーブメント」「ヒューマン・ポテンシャル・ムーブメント」と呼ばれた各地のムーブメントは、当時、医療費破綻の危機や、病気を治すことのできない近代西洋医学に対する人々の疑問や不満がきっかけとなったといわれています。

1978年、アメリカにホリスティック医学協会が発足。こうした流れを受けて日本でも、医学を全体的な視点から見直そうとする人達によって日本ホリスティック医学協会が1987年9月に設立されました。

[ホリスティック医学協会が掲げる定義]

  1. ホリスティック(全的)な健康観に立脚する
  2. 自然治癒力を癒しの原点におく
  3. 患者が自ら癒し、治療者は援助する
  4. 様々な治療法を選択・統合し、最も適切な治療を行う
  5. 病の深い意味に気づき自己実現をめざす

同協会では身体だけでなく、目に見えない心や霊性を含めた“Body-Mind-Spirit”のつながりや「環境」まで含めた全体的な視点で健康を考えるとしています。

ホリスティック医学とは、「からだ、こころ、いのちのつながり」を大切にする、生命まるごとの医学を目指すものです。こうした思想は、じつは西洋、東洋いずれにも源流があります。例えば、ヒポクラテスの時代やインド・中国の古代思想には、深遠なるホリスティックを感じることができます。ホリスティック医学とは医療の原点を求める医学であり、人間誰もが持っている本心(良心)のように思います。

■21世紀の医学・医療はどこへ向かおうとしているか

1995年、日経メディカル開発から発刊された「21世紀の医学・医療−日本の基礎・臨床医学者100人の提言」では、冒頭の編集長の言葉として次のように述べられています。
「医学研究は日進月歩でとどまるところを知らず、細胞・分子レベルへと研究がより細分化の方向に進み、ややもすると医学・医療が人間を診るという原点から離れてしまうことが懸念されている。ヨーロッパではテクノロジーになった医学・医療への反省から昔のアートを見直そうとする声もある」

100人の提言では「全人的医療、東西医学の融合、治療から予防へ、個の医療、プライマリー・ケア、医の哲学、QOLを考えた総合的医療、医療の原点に戻れ、医療の自由化、原始感覚と人間性、病気を治すのではなく患者を治す、洞察力と感性を用いるアート、臓器別・専門別に分化し過ぎの西洋医学」をテーマとした記述が目立ちました。さらに、この書物の中から印象深い文言を引用しますと、

医学のテクノロジーが進む一方で、そのこと自体は便利で結構なことではあるが、他方では診療方法の原点である素手のアート、すなわち打・聴診を忘れさせつつあるのはまことに嘆かわしい状況にある

荒川規矩男(当時、福岡大学医学部教授)

今、医療は大改革の時代を迎えている。これからは医学・医療の分野でも、人間とは何かを考える人間学を振興することである

井口潔(当時、日本外科学会名誉会長)

患者の体質に応じた治療が必要であり、その体質に応じた処方や治療手段を変え、例えばマッサージ、指圧、鍼治療、各種の精神療法など総合的な医療というものを見直していく必要がある

板倉弘重(当時、東京大学医学部第三内科講師)

いかがですか。ホリスティック医学協会の目指すところと一致すると思いませんか。

健康を保つには、何よりも自分自身の内外の調和に配慮し、自然界の法則にそって生きることである。

ヒポクラテス「ヒポクラテス全集」より

いかなる病気といえども、唯一つの器官だけの病気というものは絶対にない。一つ一つの病気を専門化したのは古い解剖学的な概念にとらわれた人の罪である。

アレキシス・カレル「人間、この未知なるもの」より

次回は、「ホリスティック医学」への大きな後押しとなったヨガ道場との出会いについてお話します。

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