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〜医者はどこまで患者と向き合っているか?〜主治医はあなた【随時更新】

現代の医療のあり方に一石を投じ、これからの医療の可能性を模索する。
心身統合医療に力を注ぐ、医師・樋田和彦のメッセージ。

主治医はあなた

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病菌を悪玉として攻撃するよりも
心身を平穏な状態に戻すことが
じつは治療で一番、大切なのです。

■「怒りのツボ」と痛み

もう何年も前になりますが、鍼灸のツボを研究していた頃のことです。「怒りのツボ」を見つけました。上腕部の内側(脇)で肘関節より5センチ位、感情の乱れによって圧痛を訴えるところです。この部分を軽く押さえながら、「やっていられない。頭に来た。くたばれ。」などの怒りの言葉を発すると痛みが強くなるのです。感情を込めなくても言葉によってツボが興奮することを知りました。

また、鼓膜のうら側に水が溜まって聞こえが悪い幼児期の子どもたちの体のバランスを調べてみました。診察ベッドに仰向けに寝て両手を万歳するように伸ばしてもらい、術者が両手首を軽く引っ張ります。すると、左右の指先の長さに差があり中には手首ほどの違いが見られます。同時に子どもの左後頭部にしこりがあり、押さえると痛みます。背中を軽く「良い子、良い子」と言いながらマッサージすると治りますが、お母さんの激しい言葉「さっさとやりなさい。バカだねー」を浴びると、強く反応してバランスが悪くなり痛みも強くなるのです。

このことは、悪い感情の言葉に体が反応し、耳の聞こえにも影響していることは十分にありえます。私は「子どもヨガ教室」を開き、難聴が改善した多くのケースを見ることができ「心と体」のバランスの大切さを痛感しました。

■「攻撃的な診療」から「教育的な診療」へ

こうして私は、日常生活の様々なネガティブな条件が体の不調の原因になるという、シンプルな考え方を推し進めるようになったのです。

もちろん、風邪など感染症と言われる病気は決して原因がないわけではありません。例えば、感情の乱れや不摂生、無理があってのことです。診療で行うべきことは、適切な診断とふさわしい薬の投与ですが、もっと必要なことは、患者本人の行動と環境の改善です。すなわち本人の心身の状態を平穏にすることが大切なのです。病気や病菌を悪玉として攻撃の対象とするのではなく、体に本来備わっている働きこそが主役であって、養生・予防に重点を置いて経過を見ます。

すべてとは言いませんが、無理や疲れによって代謝が悪くなり、その遅れを取り戻すために病気になることは少なくありません。ホリスティックな医療をするようになってからは攻撃的な診療ではなく、その人の持つ自然治癒力を引き出すという教育的な診療になっています。薬で症状を抑えることは出来る限り控える診療のため時間はかかりますが、立派に社会復帰される方を見ますと、診療のやりがいを覚えます。

体の中に敵の存在は認めず、病気は生きるために必然性がある。

■少女のあざが消えた

心身医学に興味を持つきっかけとなった忘れられない症例についてお話します。

知り合いのお嬢さん(小学校6年生)が、こめかみにあざができました。皮膚科の専門医を受診し、薬治療を受けているものの、良くなるどころか次第に大きく赤くなって3〜4センチほどになっています。私は皮膚科の専門医でないため、相談を受けたとき一旦は辞退したのですが、知り合いということで診ることにしました。

視診では顔色はとくに悪くありませんが、あまり元気そうではなく、何か隠れているものがあるように受け取りました。彼女は3人兄弟の一番上で、いとこが何人もいます。

彼女が葛藤を起こす問題になりそうな事情を探していきますと、お祖父ちゃんに、兄弟やいとこと全く違って可愛がってもらっていましたが、それが重荷になって苦しんでいることがわかったのです。

私自身も子供の頃、よく似た経験があったのでその話をするうちにすっかり打ち解けて彼女本来を取戻しました。不思議なことにそのあざはそれを機会に治りはじめ2週間後には全く消えてしまいました。
家族はその効果に驚き、親戚の人たちも専門外の些細なことでも相談されるようになったのです。そのことを機に、専門医より家庭医への興味が開かれました。
科学的証明がなければ評価しない医学界ですが、このストレス過多の時代に、医療とくに開業医こそが日常的な素朴な悩み事に対応できる役割が家庭医にはあると考える次第です。

■嗅覚異常や味覚異常の治療

耳鼻咽喉科とは文字通り、耳・鼻・のどの病気を診るのですが、体全体の働きの不調から病気が始まることから専門領域だけで片付けるのではなく、心と体と場の総合的に原因を見つけアプローチを続けています。
この領域では嗅覚異常や味覚異常の感覚障害の治療は困難なことが多いものですが、その中で興味深い症例について2つ、お話しします。

ケース1
【味覚障害になった小学4年生の男の子】

「半年も前から味が全く分からず、専門医で治療を受けても効果がない。通常の薬物治療では味覚障害は治らないかもしれない」と小学4年生の男の子が母親に連れられて来院しました。医学的には、舌のどの部分が異常を起こしているのか詳しく調べる必要がありますが、開業医の私にそのような検査はできません。母親は、味覚が分からなくなった次男の子を含めて、4人の兄弟を連れて診療室に入ってきました。
一通り母親の話を聞いて診療に入りましたが、耳鼻科的な検査には何ひとつ異常が見つかりません。本人だけは緊張していましたが、外の子は元気です。
半年前に何があったか、ですが4人の子どもの中にはそれぞれ個性があり、長男、次男、三男、末っ子として、それぞれの立場があります。末っ子はまだ2歳で親から離れません。家庭の中で次男と三男は特徴が薄いことがあります。母親から4人の性格について話を聞いていくと、次男が控えめで内にこもり我慢強いことが分かりました。そこで、母親に次男と二人だけになる機会をつくってはどうかと提案しました。その結果は驚くほど早く現れました。翌週には80%回復したのです。

ケース2
【嗅覚障害になった50歳の主婦】

3か月前から、全く匂いが分からないという女性が来院されました。私はかつての病院勤務の経験から、嗅覚障害はビタミンB1の注射療法や内服薬では効果がなく、治るとしたら自然治癒によるもの学んでいました。
ご本人は嗅覚異常をもたらした出来事を承知していました。ある日、自転車で買い物に出かけようとしたとき、自転車の買い物カゴに大きな蛇がいたのです。日頃から近所で蛇を見たという怖い話を聞いていたものの、まさか自分の買い物かごに潜んでいるとはビックリで、腰を抜かすほど驚き、自転車を投げ出してしまいました。以来、全く匂わなくなったというのです。

私は患者さんに、ショッキングな場面に遭遇する以前の自分を想念してもらいます。次に、自転車を投げ出した光景を想像上のスクリーンに再現させ、さらに自転車を投げ出したことから遡り、蛇に気づいた場面から自転車に乗ろうとする場面への巻き戻すシーンを想念し続けてもらいました。すると効果が現れ、1か月で完治しました。

現在、多くの病気はストレスから生じることが認められるようになりました。自分で作ったストレスも、他から与えられたストレスも、病因となることは古今東西普遍的であると受け入れられつつあります。誰もが大なり小なり生きていれば個々にストレスを受けています。それが病因であり、治療術が見えてきた現在、将来的に東西医学の隔てなく共通認識として活用されることを期待しています。

次回は、「氣」についてお話しします。

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