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〜医者はどこまで患者と向き合っているか?〜主治医はあなた【随時更新】

現代の医療のあり方に一石を投じ、これからの医療の可能性を模索する。
心身統合医療に力を注ぐ、医師・樋田和彦のメッセージ。

主治医はあなた

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回復や治療のためといって
辛くてもガマンして頑張ることは
自然の法則でいうと逆効果です。

■目に見えないエネルギー「氣」

前回(chapter11)で「病菌を悪玉として攻撃するよりも、心身を平穏な状態に戻すことが治療で一番大切」と述べました。こうした診療の考え方に至ったきっかけを与えてくれたひとつに、じつは合気道との出会いがあります。

日本には古くから伝わる合気道という武道があることをご存知ですか?多くの方は「相手の力を利用して倒す」という認識をお持ちかもしれませんが、合気道の基本原理は、その名のとおり「相手と“氣”を合わす」です。つまり、相手を敵対するのではなく、相手と同じ方向を向くことから全てが始まるのです。

私は、以前にお話した「生き方懇話会」のメンバーのひとり、合気道の先生がご縁となって体験したのですが、「心が体を動かす」ことについて身をもってその事実を学びました。それは医療や教育において大切なことはもちろん、人間そのものを知るうえでも、外しては成り立たないほど、重要な原則を教えていただきました。

心の一端である言葉を発すると身体に影響を与えることについてお話しましょう。例えば、不快な言葉「頭にきた!弱虫!情けない!」などを口にすると、身体の安定が崩れ、快の言葉「気持ちが良い」「有り難い」「落ち着いている」を口にすると逆に身体は安定するのです。

自ら発声した言葉が「快」であれば他人に身体を押されても動揺し難く、同様に不快な言葉を発生すると、身体は不安定になり容易に倒れてしまいます。言葉だけでなく、不快な想念によっても動揺し、快の想念ではより安定的です。

体験を続けるうち、身体には不思議な「氣」と呼ばれる目に見えないエネルギーがあることを教えていただきました。このエネルギーは取り出すことができず、具体性がないため、医学にも医学会にも認められていません。しかし、こうした目に見えないものを体験することによって、固かった私の頭は、大きな影響力を持つ「氣」を受け入れることになったのです。

■心身統一合氣道、藤平光一先生との出会い

心身統一合氣道の藤平光一先生にお会いしご指導を頂いたことがあります。とある名古屋の道場で一日合氣道の指導されたときのこと。稽古の後、懇親会が開かれたのですが、先生の隣の席は誰もが恐縮して空いてしまい、私が一番年上ということで座ることになりました。先生との雑談の中でヨガの沖正弘先生のご指導を受けたことなどを申し上げたところから話が弾み「合氣道を通して氣を体験し医療に活かしなさい」「心身医学を診療の基にしなさい」と熱心にご指導をいただきました。心身統一合氣道では「心が体を動かす」「心身を統一して天地と一体になる。」を骨子とし、次の心身統一の四大法則が基本になっています。

一、臍下の一点に心をしずめ統一する
二、全身の力を完全に抜く
三、身体の総ての部分の重みをその最下部におく
四、氣を出す

つまり、リラックスしたまま盤石の姿勢を目的としています。4つのいずれを行ってもよく、体の安定性を体感することができます。

私はこの考え方を、健康づくりのために診療の場でも患者さんの生活に取り入れ活用してもらうことにしました。そして、この体験が端緒になってキネシオロジーにつながり、過去の医学教育にはほとんどなかった生命観と医療観に発展することになったのです。

※藤平光一著「健康の秘訣は氣にあり」東洋経済新報社刊などを参考にしてください。

■アプライド・キネシオロジー、筋肉反射テスト

「病は氣から」と言いますが、すでに述べた鍼灸・ヨガの体験もまさに「氣」です。「心身統一合氣道」によって文字どおり「氣」を具体的に体験したことで一層興味深く思われました。中国古典医書・黄帝内経に「百病は氣より生ずる」とあり、日常的にも「病は氣から」と言っています。

このように「氣」は心の状態によって変わる、ということが筋力と平衡していることが分かったのです。身体が安定的であることは全身の筋力が強く、不安定であると逆に筋力は弱い。つまり、不快な言葉を発声すると筋力は下がり、快の言葉で筋力が上がるというわけです。同時に、不快な想念は筋力を下げ、快い想念は筋力を上げます。

この原理を発見したのは1964年ジョージ・グッドハート博士で、その方法がアプライド・キネシオロジーと称せられる筋肉反射テストです。アプライド・キネシオロジーでは、人間が健康な状態でいるには人体の構造と化学的な要素と精神的な面がバランスよく三角形に整っていることが大切とされています。

■合気道と東洋医学の共通点

こうした考えは東洋医学と共通するものがあるように私は思います。例えば、五臓六腑のどこかに異変が見つかった場合、西洋医学はその異変に対して、抗生物質やレーザーなどで攻撃し、取り除こうとします。要するに、病原菌を身体の敵と見なすわけです。それは一見、とても理にかなっているように思えるのですが、抗生物質の投与や化学療法を長く続けると「菌交代現象」といって、体内の細菌のバランスがくずれ、新たな病気を招くこともあることが明らかとなっています。

一方、東洋医学は、五臓六腑のある単独の臓腑だけが異常を起こしているのではなく、すべての臓器のバランスによって機能しているという考え方から、そのアンバランスを整えるにはどうするべきかを重視します。

この考えを実践し、多くの患者さんを救ってきたのが、「操体法」の創始者である故・橋本敬三先生(1897—1993年)です。橋本先生は東北大学の神経生理学研究室で研究された後、外科医として開業されましたが、晩年は自ら考案した整体法である「操体法」を人々に施しました。「操体法」は全国の治療家に広がり、今では整体師や鍼灸師、柔道整復師はもちろん、医師や歯科医師の間でも研究や治療に取り入れている人が少なくありません。

■無理に頑張ることは逆効果、自然の原理原則に従う「操体法」

私は幸運にも橋本先生が存命中、直々に「操体法」を受けることができ、その驚くべき効果を自ら体験しました。ある時、仙台市の閑静な町の中に先生の診療所「温故堂」を訪れ1週間ほど見学をさせていただきました。

当時、私は右足に違和感があり、稼働域が少なくなっており、ぜひ診ていただこうと思いました。診療ベッドに仰向けになった私は、当然、右足に何らかの施術がされるものと思っていたのですが、意外にも先生は、健常の左足を大きく動かすように指示されるのです。左足に軽く負荷をかけ、「もっと動かしてみましょう」と繰り返し言われます。私は言われるままに、夢中になって動かしました。どこも痛くない足ですから、むしろ気持ちいいくらいです。ひととおり動かした後、「では右足を動かしてみてください」先生の言われるままに右足を上げてみると、なんと稼働域が最初より少し広くなっています。左足を10回動かした後、右足を1回だけ動かすリハビリを繰り返すと、右足の稼働域はさらに広がりました。まるで狐につままれた気分でしたが、この体験を通じて私はバランスがいかに重要であるかを学びました。

調子が悪いほうの足を無理に動かすことは、バランスをさらに悪くする。健常な足を気持ちよく動かすことによって、悪いほうの足もそれに合わせて健康度が引き上げられる。これが先生の考案した「操体法」の基本であり、自然の原理原則でもあります。

また、体の歪を修正する治療術も見学し感動しました。「体の歪を取る」とは、病体はバランスに問題があり、体を動かすことによってより「やり難い」方向がある。(例えば、首を右に向ける、左に向けるとどちらかがやりにくい)この時、抵抗を与えながら「やり易い」方向へ動作を行い、頂点に達したとき一挙に全身の力を抜きます。すると、「やり難かった」動作が「やり易く」なりバランスのとれた状態になります。このように、本人が動いてみて「やり難い」から「やり易い」に修正できますと、不思議なことに自覚症状は軽くなり気分がよくなります。

一般的に、やり難く苦しい方へ我慢して向ければ楽になり治ると考えがちです。しかし、操体法では気持ちよく無理のない方向へ体を向けることでバランスが取れるという治療術です。

リハビリ療法の現場では、動かない方の手や足を、一生懸命に動かそうとする光景が見られます。リハビリ療法士の方も「頑張って、もう少し」と少しでも動かすように声がけをします。しかし、「操体法」の自然の原理原則からいえば、無理に頑張ることは逆効果なのです。

生物はあえて苦痛を求めません。体を休めるとき、苦しい無理な姿勢をするでしょうか?熟睡しているとき病気は治りやすいものですが、決して無理な苦しい寝相はしないはずです。つまり、自然に治る働きを引き出すのは「気持ちがよりよく楽である」という自然法則を活用した治療法であり、健康法とも言えます。

私も、この原理を診療に応用して結果を出しています。

橋本敬三著「生体の歪を正す」創元社より
「生体の歪みは息・食・動・想などの生活の営みが自然の法則に背反することから起こり、その程度により環境に対する不適応が生ずる。-中略― 健康であるためには、生体の基礎構造とその連動の歪みのみならず生活の誤りを正さねばならず、これは個人の責任に帰する」

「極楽」という言葉をよく橋本先生は口にされましたが、身体を極楽の境地に近づけることが最善の治療ということになります。

次回は、ストレスとホルモンについてお話します。

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