現代の医療のあり方に一石を投じ、これからの医療の可能性を模索する。
心身統合医療に力を注ぐ、医師・樋田和彦のメッセージ。
私たちはよく「ストレスがたまる」「ストレスを発散させる」などと言いますが、ストレスとはいったい何でしょうか。現代西洋医学では、ストレスを与える要因(ストレッサー)として、次の3つに分類しています。
そしてストレスとは、そのような要因に対して身体が起こす防御反応を指します。私たちの身体はストレスに対して必要な体制をとろうとするとき、アドレナリンという分泌物を脳下垂体などから放出します。
アドレナリンとは、身体が警戒の体制をとろうとするとき、ある種の危険信号として分泌され、心拍数と血圧を増やし、代謝を促進させる役割を持っています。そして骨格筋や肝臓の血管を拡張させ、それ以外の血管は収縮させ、血管抵抗を全体的に上げる作用があります。
ストレスについてひもといてみましょう。ストレス学説を発表したカナダのハンス・セリエは、ストレスの段階を、警戒期、抵抗期、疲労期という3段階に分けています。私はこの学説を参考にしながらも、筋反射テストによって、次の4つの段階に分けてストレスモデルを考えるようになりました。
以上のように、ストレスの状態を4つの段階に分けましたが、必ずしも4つの順序どおりに進むとは限りません。最初から、いきなり疲労期に至ることもあれば、突然に混乱期の状態を起こしたりすることもあります。それが患者さんの本来の体質や性格、そして環境や体験などの原因に依存する割合が高く、自覚症状のないまま無意識のうちに無力感、絶望感にとらわれていたり、無関心に陥ったりするのです。
がん患者の中には、絶望、無力、うつという状態の意識を持った人がかなり高い割合で含まれ、セロトニンの反応が強く見られます。
このことについて、見方を変えると、身体が何らかの要因によってストレスに対してアドレナリンによる抵抗をやめ、セロトニンが関与する虚脱感の中にいると、生活環境の中で発がん物資の影響を受けやすくなり、その結果、がんを発症することもあるのではないかと推察しています。
がん予防およびがん治療のために、がんとセロトニンの関係は、今後いっそう研究していくべき課題だと考えています。
警戒期や抵抗期のストレスは、人間として生きていく以上、避けて通れない当たり前のことだと思います。また、ストレスに対してセロトニンが関与してくる病気については、いかにも人間らしい病であるといえるのですが、人間の生命に与える影響が大きいものです。
今後の医療は、セロトニンの関与から、いかにアドレナリンの関与に戻していくかということを、第一に真剣に考えていかなくてはなりません。つまり、多少の苦境や挫折に陥っても、絶対に抵抗をやめないのが、人間の生きる術だと考えます。いかなるストレスにも立ちすくまないようにすることが、さまざまな病気に対する第一の処方なのかもしれません。
ここまでストレスによって分泌されるアドレナリン、セロトニンについてお話をしてきましたが、これらを調べることを可能にしたのが、キネシオロジーという診断方法です。この手法を取り入れてから、私の診療は大きく変わりました。
キネシオロジーとは、筋力の変化をとらえ、身体に生じている異常などを見つけるものです。キネシオロジーのうち手指を使ったバイディジタルOリングテストを考案したのは、シカゴ医科大学の薬理学教授、またマンハッタン大学の電気工学学科客員研究教授などで活躍された現代医学者、大村恵昭先生です。キネシオロジーという方法を用いて、漢方薬や薬草の検査、さらには新薬の効果について行った検査の結果などが報告されており、医者として大変興味深いものでした。
しかし、最初に方法の内容を知ったときは、正直言うと驚きました。なぜかというと、その方法は、被検者の片手の親指と、一定の条件を満足させることのできるもうひとつの指を対向させて、その二本の指でつくったOの形のリングを利用するだけの、きわめて簡単なものだったのです。
次回は、私とキネシオロジーとの出会いについてお話します。