現代の医療のあり方に一石を投じ、これからの医療の可能性を模索する。
心身統合医療に力を注ぐ、医師・樋田和彦のメッセージ。
キネシオロジー(Oリングテスト)について語るとき、「気」は非常に重要な意味を持ちます。今までも「気」については何度もふれてきましたが、ここでは鍼灸における物理的なエネルギーの「気」について紹介したいと思います。
鍼灸でいう「気」とは、体に小さな磁石のN極S極を貼ることで流れるエネルギーのこと。経絡という一筋のエネルギーの流れに沿うようにN極→S極の順に磁石を貼ると、ある個所の痛みが軽くなり、その反対に貼ると痛みが強くなります。鍼灸とは電気の流れを調節することで、こうした流れを「気」と呼んでいるのです。この得体の知れない「気」は科学的根拠がないという理由で、なかなか取り上げられませんが、キネシオロジーに出会ってから、筋力もまた「気」の状態を表現していると納得することができました。
キネシオロジーでマイナスになる(筋力が下がる、指が離れる)ことは「気が乱れる」ことであり、ストレスを受けたと判断できるため、ストレス学説に関心を向けるようになっていきました。ストレス学説なら西洋医学でも受け入れられており、漢方医学でも病因論でほぼ同じことが記載されています。
中国医学の病因論
○「百病は、皆、気より生ず。怒れば気上がり、喜べば気緩み、悲しめば気消え、恐るれば気行(ゆきわた)らず、驚けば気乱れ、熱すれば気泄(も)り、寒すれば気収まり、労すれば気耗(へ)り、思えば気結ばる」
黄帝内経
○漢方医学では、人が病気になる「病因」を3つに分類
内因 感情 (内傷七情:喜・怒・憂・思・悲・恐・驚)
外因 外的刺激 (六淫:風・寒・暑・湿・燥・火)
不内外因 生活背景 (飲食不摂生・房事過多・毒獣毒虫・金創)中国古書「三因極-病証方論」
西洋医学と漢方医学の共通点であるストレスに着目した私は、キネシオロジーとストレス学説(chapter13参照)を結びつけることにしました。さらに、ストレス学説に関係する化学物質(ノルアドレナリン、アドレナリン、β-エンドルフィン、セロトニン、ドーパミン、ヒスタミン、副腎皮質ホルモンなど)を使って「心を科学する」ことにしたのです。具体的にいうと、ストレス学説の各時期と化学物質を次のように当てはめることにしました。
○警告反応期─ノルアドレナリン
○抵抗期───アドレナリン
○疲憊期───セロトニン
しかし、これだけではキネシオロジーによって恐怖・不安・緊張を与えるだけです。そこで「ストレスは健康に悪い」というストレス悪玉論ではなく、「ストレスに対抗し、新しく進化する」チャンスと切り替えられるよう、様々な治療術を使って症状の回復を図ると共に、生き方と生活を改善する診療を確立していったのです。
〈キネシオロジーで指が離れた場合に推察できること>〉ノルアドレナリン | イライラ、焦る、腹が立つ、緊張する |
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アドレナリン | 重い、辛い、苦しい |
セロトニン | 閉塞、絶望、挫折 |
エンドルフィン | 至福、快感、悟り、丁度よい |
オキシトシン | 愛、幸福感 |
ドーパミン | 中毒的、麻薬的、自分の世界 |
ヒスタミン | アレルギー、混乱、錯綜 |
サブスタンスP | 痛み |
例えば、ご主人を亡くして、体調不良を起こしておられる80歳のお婆ちゃん。両膝が痛くて困っていると来院されました。その方に「お家では?」と問いかけますと、指が開くネガティブな反応が出ます。「もし御主人が側にいたら?」と問いますと、ポジティブに変わります。そこで「ご主人の体はなくなっても、魂は残っていると言います。どうか、御主人と一緒のつもりで話しかけてください」と会話を続けるうちに、体調不良がなくなり、やがて元気になりました。
このように「心を科学する」ために、様々な化学物質をつかってテストをしています。これによって、自分の役割、他者との関係性、環境との関係性、幼い頃の両親との関係性、自分に対する評価、など、じつに多くを調べることができます。
キネシオロジーを診療に取り入れて30年が経過しました。そして強く感じることは、医療には少なくとも医学と人間学が必要であり、キネシオロジーのより深い導入を進めたいということです。
いつの日か、視診、触診、打診、聴診、問診に加えて筋診(キネシオロジー)が診察に加わり、患者さんを全人的包括的にとらえるホリスティック医学として活用されるよう願っています。
次回はキネシオロジーのさまざまな手法についてお話します。