現代の医療のあり方に一石を投じ、これからの医療の可能性を模索する。
心身統合医療に力を注ぐ、医師・樋田和彦のメッセージ。
キネシオロジー(筋反射テスト)で診察するとき、私は指の筋力を使います。まず患者さんが二本の指でOの形のリングをつくり、私がそのリングを両手のリングで引っぱって、指が離れるかどうか、その反応を見ながら原因を探っていきます。身体のどこが悪いのか部位を探ることもあれば、患者さんのストレスの原因は何なのか家族関係や職場関係を探ることもあります。また、十種類以上もある花粉症の薬のなかで、いずれが適しているかもほぼ正確に見つけ出すことができます。
「指でリングをつくるだけでなぜいろいろなことが分かるの?」と、キネシオロジーについて理解されない方も少なくないので(かつては私もそうでした!)、今回は改めて、キネシオロジーについて分かりやすくお伝えしたいと思います。
キネシオロジーは、身体の筋力を応用して身体を診るというもので、1960年代、身体運動の研究者であるアメリカ人のジョージ・グッドハート博士が確立した「アプライド・キネシオロジー(応用運動機能学)がすべての始まりです(chapter12参照)。今ではアプライド・キネシオロジーはアメリカで科学的方法として認められ、その流れを組んだ「タッチフォーキネシオロジー」も世界100カ国以上に普及しているほど、医療関係者やスポーツドクターなどの間では名の知られたものです。
「筋力」というと身体の一部分を思うかもしれません。しかし、心と身体すべてとつながっています。「火事場の馬鹿力」といって、生命の危険が迫る緊急事態に、ものすごいパワーを発揮する例がありますが、命の危険を察知した脳が筋力に指令を出したともいえます。これは特異な例ですが、私たちは似たようなことを日常的に経験しています。
例えば、嫌なことがある日は、目が覚めても布団のなかでぐずぐずして、朝から身体が重かったりだるかったりしませんか。逆に、デートの約束や、楽しみなことがある日は、ぱっと元気に布団から飛び起きたという経験はありませんか。あるいは、苦手な人と長時間、一緒にいるだけで、どっと疲れたりしませんか。いずれも、特に身体を使ったわけでもないのに、本人の意志とは関係なく、筋力が強くなったり、筋力が弱くなったりしていることを示しています。
こうした筋力の変化を利用した検査法がアプライド・キネシオロジーで、もともとは腕や足の筋力の変化によって検査をしていました。しかし、これらは上腕筋や大腿四頭筋といった大きな筋肉を使うため、患者さんの疲れなどの影響を受けやすいという問題がありました。そこで新たな診察法として、指の筋力を応用して身体の異常を見つける方法「バイ・デジタル・O-リングテスト(chapter14)」が登場し、広まっていったのです。
とはいえ、最初は誰もが半信半疑です。検査機器も使わず、身体の一部の筋力を使うだけで、患者さんの身体の状態が分かるなんて、それまで西洋医学にどっぷり浸ってきた私にとって信じがたいことでした。しかし、その一方で、西洋医学の限界を感じていたことも事実でした。これについてはchapter5に書かれているので割愛しますが、患者さんを病名というジャンルにふるい分けして対症療法するのではなく、症状の原因を探って根本的な治療をするために、一人ひとりの身体の声にもっと耳を傾けたいという思いを強くしていたのです。
私はある日、キネシオロジーを使って、身体にストレスや負荷を与えている物質について試してみることにしました。人体に放射線が当たった状態でキネシオロジーを行うと、リングをつくった二本の指がぱっと開いて筋力が下がっていることを示したのです。放射線をオフにすると、二本の指は閉じたままです。これには驚きました。身体が放射能を感じて、指の筋力が反応したのです。
その後は、恐る恐るではありますが、患者さんの身体に適した副作用の出ない薬を選び出したり、患者さんの心の悩みに触れてみたりと、キネシオロジーを使って患者さんの身体に問いかける機会が少しずつ増えていくようになりました。キネシオロジーでは、患者さん自身が気づかない、無意識や潜在意識の部分まで明らかになるので、ときには感情が高ぶって涙される患者さんもいらっしゃいます。真の原因と向き合うことで、すとんと症状が消えることもあり、心と身体はひとつなのだと実感させられます。
ここでぜひ私が皆さんにお伝えしたいことは、キネシオロジーはあくまでも、診察の補助的な手法のひとつだということです。医療機器を駆使しても原因が分からない症状や体調不良の原因を探るのは、暗闇のなかで探し物をするようなもの。そんなとき、キネシオロジーを使って患者さんの身体と対話をすると、羅針盤のように原因や要因へと導いてくれるのです。
もちろん、患者さんの身体と対話するには、それなりの時間を必要とします。さまざまな問いかけをし、筋力の反応を見ながら核心へと迫っていくわけですから、「3分治療」といった患者さんの顔もろくに見ない診察では、到底、キネシオロジーを使いこなすことはできません。じっくり時間をかけて患者さんと向き合う根底には「もっと患者さんのことが知りたい。症状の原因が知りたい。何とかこの患者さんを治してあげたい」という医師としての強い思いがあることは言うまでもありません。
副作用のない薬を処方するとき、つねに私はキネシオロジーで選択をしています。1ヵ月前は患者さんに適合していた薬も、症状が軽くなっていくことで、相性が変わることもあるからです。先日も、Aという薬を長く服用していた患者さんの身体に尋ねてみると、Bという薬のほうが良いというので、さっそく変更したのですが、それによって薬剤の点数が下がりました。医療事務を担当している家内は「あれだけじっくり話を聞いたうえに、薬代が下がったの」と小さなため息をついていました。しかし、それが本来の医療のあり方だと私は思うのです。
Nさんはサマーキャンプから戻ってきてから、唾液が呑み込めないほどの喉の痛みを訴えていました。発熱は39度にもなりました。診察してみると喉の右側の扁桃腺の周りが赤く大きく腫れていました。
そこでキネシオロジーを使って手持ちの抗生物質を調べたところ、1種類の薬が患部に有効でしかも他の臓器器官に副作用がないことも確かめられたので、その薬を与えました。服用を始めて二日後に腫れが引きましたが、食事はまだ十分とれません。しかし、四日目には喉の充血もとれ食事も正常に取れるようになり六日目には治癒しました。
キネシオロジーの講義を何度も受け、知人の間で試しては、その成果を楽しんでいましたが、まだ診療に応用することはできない頃のことです。
午後の診療に午前来診した中年女性(45歳)が駆けつけてきました。全身に強い発疹と喘息様の症状がみられました。「いただいた薬を飲んでから、こんなふうになりました」というのです。カルテにはペニシリン系抗生物質の他2剤投薬されたと記録されています。そこで、1剤1剤手に持ってもらい手指でつくったリングを私が開こうとしますと、どの薬も手の指に力が入りません。なかでもペニシリン系の抗生物質は、本人が指で輪を作ろうとしても輪にならず、だらりと力が抜けて伸びきってしまうのです。これら3種の薬を避け、私の4本の指をもっても開かない薬を1種類見つけました。それだけを服用し、他の薬は一切飲まないように指示して帰宅してもらいました。
翌日、来院した彼女は、発疹と喘息様の症状は全くといってよいほど消えていました。このことを機に、キネシオロジーは私の診察には欠かせないものとなりました。
キネシオロジーを使うことで、自分が思いもしなかったことが分かり、患者さんの症状が改善していく姿を目の当たりにすると、感動すら覚えます。患者さんのなかには「先生は私の救世主です」と涙される方もいますが、とんでもありません。
キネシオロジーの根本的な考えは、患者さんの身体に教えてもらう「主治医はあなた」です。私はただ患者さんの身体の声を聞き、その内容に従って治療を行っただけのことです。これほど迷いのない、シンプルな医療があるのでしょうか。このすばらしい画期的な方法を、多くの医者が取り入れるようになれば医療は変わる、そう信じています。
次回は私が実践しているキネシオロジーと統合医療についてお話します。